食戟のソーマ 第1巻 附田祐斗/佐伯俊


実家が下町の定食屋を営む中学生・幸平創真。目標である料理人の父を
越える為、創真は修行の毎日を送っていた。しかし突然、父から料理学校
への編入話を告げられ…!?創造する新料理マンガ、ここに開演!!


【収録話】

1 : 「果て無き荒野」
2 : 「神の舌」
3 : 「「化ける」 ふりかけ」
4 : 「魔王、「玉」 を語る」
5 : 「その料理人は笑わない」
特別読切 : 「食戟のソーマ」
番外編 : 「倉瀬さんの日記」


原作:附田祐斗氏、作画:佐伯俊氏、協力:森崎友紀氏による、新感覚グルメストーリー 「食戟のソーマ」 第1巻。
「週刊少年ジャンプ」 H24年52号〜H25年4・5合併号、ジャンプNEXT!H24年春号掲載分収録。発売日は2013年4月4日。




「食戟のソーマ」


タイトルに 「食」 と付いている通り、グルメ漫画と呼ばれるジャンルの作品ですが、「戟」 は本来武器 (ほこの一種) を表す
漢字であり、「食戟」 は造語のようですね。「剣戟 (刀剣による戦い) 」 のイメージから 「食による戦い」 という意味を与える
ために、この 「戟」 という漢字を付けているんでしょうか。ジャンル的にはバトル (料理対決) 漫画でもあるようですし。


まぁこの漫画に限らず、グルメ漫画が取りも直さずバトル漫画であるという例は、結構ある気はします。「美味しんぼ」 なんかも
“究極” と “至高” の対決がメインでしたし、テレビでは 「料理の鉄人」 なんていう料理対決番組もありましたしね。


それだけ 「料理」 というのは、“知識” や “腕” や “創造性” に加え、 “味覚” に “嗅覚” さらには “芸術性” など、何かを
競うための素材に溢れた分野だと言えるのではないかと。


但し、この 「食戟のソーマ」 の場合、1巻の時点ではタイトルにもある 「食戟」 は、特別読切でしか見ることは出来ませんので、
バトル漫画と言えるかどうかはわかりません。一応、「作る側」 と 「食べる側」 のバトルだと言えなくもありませんが。



グルメ漫画として重要になりそうなのは、やはり 「料理」 の部分だと思いますが、作画が綺麗で上手いので、見た目的には
美味しそうに描かれてます。メニューについては、 1話からソーマが作った料理を見てみると、「なんちゃってローストポーク」 、
「化けるふりかけごはん」 、 「ブッフ・ブルギニョン」 となってます。


あとは、読切で作られた 「卵かけごはん」 もありますが、主人公のソーマが下町の定食屋の息子ということもあって、お上品な
料理や高級料理が並ぶのではなく、食材も近所のスーパーで買えるようなものを使用して、失敗もするけれどそこから今までに
無い 「新しい味の世界」 を作り出していくというのが、ソーマが作る料理の基本となるのかな、と。


これは伝統と格式を重んじる遠月という学園の校風と、一流以外は認めない、失敗は許されないというえりなの考え方とは
対極のアプローチで、それぞれ別の理念を持った料理人の対決という構図になるのは、良いと思います。


味についてはさすがにわかりませんけど、「なんちゃってローストポーク」 と 「化けるふりかけごはん」 は一応作り方も書いて
ありますし、読者でも作れそうな料理にも見えます。ただ、読切の 「卵かけごはん」 は一見簡単そうに見えて、作中で遠月の
学生ですら 「できない」 と言ってる、「調味料の風味を生卵に閉じ込める」 技術が、素人でも出来るのかどうかですね。


自分でも出来るくらいなら、作って食べてみたいですけれども。


「ブッフ・ブルギニョン」 は試験のための課題メニューということもあり、どんな料理を作るかではなく、肉を短時間で柔らかくする
アイデアが見所ですが、実際のところ普通に長時間煮込んだ場合に比べて、味も良くなったりするもんなんですかね。それとも
味付けはソーマの腕と、恵ちゃんのサポートが良かったというだけなのかな。



もう一つ、グルメ漫画で話題にされることが多いのは、料理を食べた時のリアクションでしょうか。この漫画の場合は脱衣系と
でも言うのか、食べた側が美味しさ (不味さ) を脱いで表現することが多いです。1話の倉瀬さんから始まって、地上げ屋の
峰ヶ崎 (と男三人)、えりな、そしてシャペル先生と恵ちゃんも、服を脱いでハチミツをかぶってます。


読切で掲載された時の、えりなの 「極上ー!」 のリアクションを見て、この漫画を連載で読みたいと思った人は多そうですね。


1巻のストーリーは、父親を越える料理人を目指している主人公の幸平創真が、ある日突然卒業到達率10%以下の超絶エリート
校に編入することとなり、学園内で 「てっぺん獲る」 ことを目指しての戦いが始まる、という感じです。


読切の方では、既にソーマは学園に編入していて、学園の各部門のスペシャリストによって構成される 「遠月十傑」 の一人と
卵料理で 「食戟」 をする内容となってます。直接薙切えりなとの料理対決はせずに、えりなを審査員とすることでソーマの実力
を認めさせるに留めているのは、連載を見越してえりなとの対決を残しておいた感じでしょうか。


読切と連載との違いは、読切のえりなが “十傑” では無く “料理指南の最高責任者” になっていることと、連載の “十傑” は
各部門のスペシャリストというわけでは無さそうなこと。そして、連載よりソーマが少し大人っぽく見えることあたり。



連載でのえりなは、まだソーマの実力を素直に認めてませんし、ソーマに 「アンタの口から 「美味い」 って言わせてやる!」 と
いう一種の 「目標」 も与えているので、えりなが当面のライバルとしてソーマの前に立ちはだかっていくのかな、と。


ソーマの父親が、「いい料理になるコツは…自分の料理のすべてを捧げたいと思えるような、そんな女と出会うことだぜ ――
と言ってますし、その台詞の直後にえりなが登場しているので、えりながソーマにとっての 「そんな女」 だろうと思いましたが、
4話のラストから登場して来た田所恵ちゃんも、今後の関わり方次第ではヒロインになれそうなポジションに居そうです。


ツンデレのエリートお嬢様と、純朴な田舎育ちの落ちこぼれ少女という正反対のキャラですし、対比としても面白い二人です。
あとヒロイン候補になれそうなのは、カバー絵にも登場して、ソーマの料理で最初に 「脱いだ」 幼馴染みの倉瀬真由美ですが
…さすがにこの子がヒロインになるのは無理そうかな。名前が出たのも、巻末の描き下ろし番外編ですし。


個人的にはツンデレで巨乳のえりな様は好みなんですけど、恵ちゃんも焦ると東北訛り (?) が出る所とか、白目の泣き顔
とかが可愛くて困ります (別に困りませんが)。えりなは高飛車で性格が悪そうに見えますけど、要はプライドが高くて完璧
主義なだけだと思うので、そのプライドを傷つけられて癇癪起こしてる時が可愛いかなと。赤くなって涙浮かべてる時とかも。



主人公のソーマは、少年漫画らしく前向きで野心家な少年。同年代に比べても能力は高いけど、父親の幸平城一郎という
巨大な壁に跳ね返されて来たこともあって、決して慢心することなく強い向上心を持ってます。料理を出す時の 「おあがりよ」
と、食べ終わった後の 「御粗末!」 という台詞も、料理人としての礼儀が出来てるかなと。言い方は別にして。


でも、調べてみると 「おあがり」 って大阪とか関西地方でよく使われるっぽい言い方みたいですね。


城一郎は、海外ではかなり有名なシェフみたいですし、たぶん遠月の元関係者 (卒業生?) っぽいですけど、何で日本では
全く話題にもされないで、定食屋なんかやってるんでしょうか。それだけの有名人の店なら、話題にならないのが疑問ですし、
たとえ素性を隠して店を出してるにしても、口コミで評判が広まりそうな気がします。


まぁ、何となく薙切仙左衛門と関係がありそうな気もしますけど、しばらくは城一郎の出番は無さそうかな。


そんな感じで1巻を読んだ感想としては、とりあえずキャラクターやストーリーや作画が良ければ、個人的には満足出来そうな
漫画ですが、やっぱり主人公が作る料理が美味しそうに見えた方が説得力がありますし、その辺は料理研究家の森崎友紀氏
が協力してるということなので、ちゃんと考えられてそうです。


ジャンプの連載では読んでいないので、単行本から読み始めましたが、絵は綺麗だし女の子は可愛いし、ストーリーもなかなか
熱い展開になりそうだし、食べた時のリアクション (女性限定) も良いので、期待出来そうです ―― というところかな、と。



―― 食戟のソーマ 第1巻 (了)




画像の著作権は全て著作権者に帰属します : © Yuto Tsukuda 2013 © Shun Saeki 2013




月 奏 ページの先頭へ ▲