射〜Sya〜 第3巻 大塚志郎



大塚志郎氏著の “元祖” ガールズ弓道ドラマ!! 「射〜Sya〜」 の第3巻です。
掲載誌は 「月刊ビッグガンガン」。


【収録話】

十一立目 : 「昇級審査@」十四立目 : 「射格」特別編 : 「正弓とナナちゃん」
十二立目 : 「昇級審査A」十五立目 : 「国体」
十三立目 : 「当て射」特別編 : 「行射演武」



十一立目 「昇級審査@」 。十二立目 「昇級審査A」 。


「メイド喫射」 や 「矢球対決」 によって、着実に弓の力をつけて来た正弓が次に挑むのは、“昇級審査” です。


弓道の級位は五級〜一級、段位は初段から十段まであるようで、綾園弓道部員の審査前の段位は、美射が五段 (錬士)、
祈が参段、マナが初段、チカが一級となっています。


審査で求められるのは、的中ではなく主に “射型” と “体配” 。「正射必中」 の弓道に於いては、弓は “中てる” ものではなく
正しい射を行なえば “中たる” ものなので、それらが何よりも重要ということでしょうか。それに、的に当たりさえすればどんな
射を行なっても段位が取れると言うならば、それは 「武道」 のイメージから、少し外れたものに感じられるかもしれませんしね。


そして今回、正弓が目指していた三級の審査規定は、


「射の基本動作及び弓矢の扱いが整い秩序のある指導の下に修練を経たと認められる者」


とのことで、マナも言ってましたが、三級では “跪坐” や “体配” をそこまで習熟している必要は無さそうです。


それに、不純な動機とはいえ、美射部長の下で真面目に練習に取り組んできた正弓であれば、今の実力の延長線上でも、
よほどのことが無い限り、三級に落ちることは無かったのかもしれません。



それでも、目先のことだけ考えるのではなく、より高い意識を持って正しい指導を受けるということは、結果的に三級を超える
だけの実力を持つことにもつながります。そしてその実力を身につけられたのは、部活の練習中だけではなく、家に帰っても
跪坐や体配の練習をするほど、正弓が高い目標と向上心を持って、地道に修練を積み重ねた証でもあります。


だからこそ、三級に落ちたと思った時は 「悔しい」 と思うことが出来るんでしょう。本気で練習に取り組んでいなければ、涙を
流せるほど 「悔しい」 という感情は出てこないと思いますし、自分のことよりも先輩達の期待に応えることが出来なかったこと
に対して、頭を下げることなど出来ないんじゃないかな、と。


今まで何も本気でやって来たことの無かった正弓にとって、初めて本気で取り組んで、初めて他人の期待を背負って、初めて
プレッシャーを感じて、そして初めて 「悔しい」 という感情を持つことが出来たのが弓道でした。


まぁ弓道に限らず、何かに真剣に取り組んだ結果、他人に認められたり、成功を一緒に喜んでくれる仲間が出来るというのは、
やはり嬉しいものですし、『弓道を始めて…良かった!!』 という正弓の気持ちが、何ものにも代えがたい喜びの感情として
伝わって来たのが、とても良かったと思います。


ちなみに、正弓が合格した一級の審査規定は、


「射の体型(射型)及び体配が概ね適正であると認められる者」


ということで、やはり基礎が大事ってことですね。審査規定を見ると、“的中” という言葉が出るのは参段からになってます。
逆を言えば、そのレベルで正しく射ることが出来れば、自然に “的に中る” ようになるということかもしれません。



十三立目 「当て射」 、十四立目 「射格」 。美射が教える “正射” とは対極の “当て射” の理念を掲げる三人組、豊郷理恵、
千羽夜明美、飯沼美樹が登場 。 「正射必中」 ではなく、「必中正射 (的に中たれば、その射は正しい)」 という考え方をする
“的中至上主義” で、綾園弓道部に勝負を挑んできます。


まぁ、弓道の試合が的中数で勝敗を決める以上、 「武道」 というより 「スポーツ」 の感覚が強いであろう高校の部活であれば、
“試合に勝つ” ために的中を目指すのは、ある意味仕方ない部分もあると思います。


より高いレベルを目指して弓道を続けていくつもりでも無い限り、高校の部活動は中らなければ試合に負けてそれで終わって
しまうわけですから、『的に中らなければ意味が無い』 と考えてしまうのも、無理からぬところではないかと。


実際のところ、「当て射」 と 「正射」 にどの位の違いがあるのかはわからないのですが、「当てに走る」 ということは、たぶん
正射よりも当て射の方が、的に中てるだけなら簡単だ…ということになるんでしょうね。でも結局、当て射でも中てるためだけの
“技術” が必要になるわけですし、「中てるための射」 を繰り返し行なう正確性や、持続性も必要になって来ると思います。


それに、正射には基本となる射ち方がありますが、 当て射の場合、正しい射ち方なんてものが存在しないわけですから、
「正解」 を自分で探し出さなければならない、ということだと思います。誰かの真似をして簡単に中てることが出来れば、誰も
苦労はしませんし、自分なりの 「中てる射」 を究めていくことは、想像するよりずっと難しいことなんじゃないかな、と。


だからこそ、ちょっとしたことで自分の “射” を見失ってしまうのかもしれません。


理恵は 『正射必中など的に中たらん連中の逃げ道にすぎない』 と言ってますが、実際に正射で中てている人が居る以上、
「正射なんか中たらない」 というのは、結局それだけの実力が無い連中の言い訳と捉えられてしまいそうです。



十五射目 「国体」 。美射の国体出場と正弓の新人戦が近づき、正弓には同じ学年のライバル (?) 黒将礼無が登場します。


礼無は、綾園に道場破りに来た 「当て射三人組」 の一人、豊郷理恵と同じ京大射高校の一年で、美射と祈の中学の後輩。
一年生ながら国体の代表に選ばれるほどの実力とのことですが、通称 「ギャル弓士」 と呼ばれている超問題児でもあります。


美射が 『正選手に選ばれるには90中以上が目標』 と言ってますが、やっぱり選考基準は “的中数” になるんでしょうか。


理恵の後輩で、かつての先輩の美射を呼び捨てにしてるということは、礼無も当て射側の考え方なのかもしれませんが、
国体のような大きな大会でも、当て射が認められているのだとしたら、必ずしも当て射が邪道だと言い切ることも出来ない
のかもしれませんね。


まぁ、自分には弓道経験が無いので、どちらが正しいとも言えませんし、試合に勝つことだけが目的なら、当て射の考え方も
人それぞれで別にアリだとは思いますが、個人的に弓道に対しては、射姿が美しいものだというイメージを持っているので、
やはり正射の方が見てみたいかな、と思います。



この他に、3巻には番外編が2本収録されてますが、とりあえず物語的にはだいぶ落ち着いてきたかな、という感じです。


初心者だった正弓も、昇級審査に合格して級位を持つことになりましたし、弓道の基本的な解説はだいぶ少なくなってきて、
今巻では 「正射」 の大切さについて、じっくりストーリーを重ねていたように思います。


1巻を読んだ当初は、弓道のルールなどを一通り説明したら、すぐに試合などが始まっていくのかと思っていましたが、やはり
正弓が主人公である以上、正弓がまともに行射出来ないようでは話になりませんし、正弓が成長するまでゆっくり進めている
のは、個人的に正解かなと。


一応、正弓も人前で普段どおりの行射が出来るようにもなりましたし、新人戦の話も出て来ているので、試合は近いんだと
思います。ただ、いきなり好成績を収めてしまうほど、正弓は天才ではありませんが、「正射必中」 を貫いて 「必中正射」 に
惨敗してしまうようでは、今までの流れも否定してしまうことになるので、その辺りをどう料理するんでしょうか。



―― 射〜Sya〜 第3巻 (了)




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